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投稿エピソード#13

秋田県立秋田南高等学校 阿部智博先生/私にとって思い出深い「運命の一曲」

2020年9月3日

私にとって思い出深い「運命の一曲」

 母校でもある秋田県立秋田南高等学校に赴任した初年のコンクール・シーズンを終え,この先のバンドや自身の方向性について,時間をかけ思慮を重ねておりました。このバンドの伝統を守りつつ,周囲の期待に応えていくために,「伝統に胡座をかくのではなく,常に挑戦し続ける」ことで,生徒と共に成長していこうと心に決めました。

 

 この挑戦に欠かすことのできない,私が高校生のときからの長い付き合いで,秋田南高校の大先輩であり,今や大親友でもある作曲家,天野正道氏からいただいた多くのご助言と,秋田南高校吹奏楽部の礎を築き上げた,我が恩師でもあり,第2の親父でもある故・高橋紘一先生の「選曲は人格である」というお言葉に思いを巡らせながら悩みに悩んで選んだ曲が,戦時加算を終えPD(パブリック・ドメイン…著作権保護期間の終了した作品)となったばかりであったモーリス・ラヴェルの作品の中の「ラ・ヴァルス(舞踏詩)」でした。

 

 管弦楽曲として有名なこの曲を作曲者自身が2台ピアノ版にしたものをベースとし,天野氏が魔法の編曲をしてくださいました。二人でこの曲について話した際に,「冒頭の部分はどうしてもコントラバスでやりたいよね。」と意見が一致した結果,舞台上にコントラバスが6本も並ぶこととなりました。しかも,コントラバス奏者は2名だけなので,近くの楽器(ユーフォニアムとテューバ)の4名が持ち替えで演奏することとなり,自分の楽器の他にコントラバスも練習する日々が続きました。予備楽器を加えた計7本のコントラバスは,移動の際の楽器運搬も一筋縄ではいかなかったことを思い出します。

 

 また,ハープは当然のように1台しかなく,本来2台なくては音が欠けてしまうのを「ペダリスト」なる特殊人員を配置してカバーしておりました。アクロバティックな超マルチ打楽器も定着しました。様々な意味で日本の吹奏楽界に多少なりともインパクトを与え,新しい風を吹かせることができたのではないかと自負しております。

 

 指揮者として普門館デビューを果たしたこの楽曲で,フランスの音楽の音色,色彩感,匂い,それらを表現するための弦楽器や管楽器の奏法など,実に多くのことを学び,結果としてこの翌年以降の「夜のガスパール」,「クープランの墓」,「マ・メール・ロワ」という一連のラヴェル作品の選曲に繋がることとなります。

 

 なお,この「ラ・ヴァルス」は2010年に再演いたしましたが,当然のようにコントラバスは6本のままで演奏しました。ただその際,予算の少ない県立学校にとっては夢のようなダブルハープ(ハープ2台編成)による演奏が実現することとなり,とてもうれしかったのですが,その反面,楽器運搬の悩みが増えたことも思い出します。ちなみに,指揮者として普門館デビューを飾ったこの「ラ・ヴァルス」は,指揮者としての普門館ラストステージでも演奏することとなった,私にとって思い出深い「運命の一曲」です。

 

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