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楽曲詳細情報
- 作曲
- ミハイル・グリンカ(Mikhail Glinka)
- 編曲
- 黒川圭一(Keiichi Kurokawa)
- 演奏時間
- 5分30秒 (約)
- グレード
- 4
- 調性
- 原調 (D:)/アレンジ (C:)
- 主なソロパート
- Fl. / Ob.(or B♭Cl.) / Bsn.(or Bass Cl.) / B♭Cl. / A.Sax. / Timp.
- Trp.最高音
- 1st / G 2nd / E
- 最少演奏人数
- 23名
- 編成
- 吹奏楽(小編成)
- Flute 1 & 2
- Oboe (opt.)
- Bassoon (opt.)
- E♭Clarinet (opt.)
- B♭Clarinet 1 , 2 & 3 (all div.)
- Bass Clarinet
- Alto Saxophone 1 & 2
- Tenor Saxophone
- Baritone Saxophone (opt.)
- Trumpet 1 & 2
- Horn 1 & 2
- Trombone 1 & 2
- Bass Trombone (opt.)
- Euphonium
- Tuba (div.)
- String Bass (opt.)
- Percussion ※2 players~
- Timpani
- Marimba
- Bass Drum (opt.)
楽器編成
楽曲解説
ミハイル・イヴァーノヴィチ・グリンカ(1804-1857)は、国外で初めて名声を得たロシア人作曲家として知られ“ロシア近代音楽の父”と称されている。“真のロシア的音楽”を初めて作ったといわれるグリンカは、リムスキー=コルサコフやボロディンらの「ロシア五人組」など、後世のロシア音楽に大きな影響を与えた。代表的な作品に、歌劇「ルスランとリュドミラ」のほか、歌劇「皇帝に捧げた命」(別名:イワン・スザーニン),「ホタ・アラゴネーサ」などがある。これらの作品はロシア的な芸術音楽の伝統の草分けであるだけでなく、ロシアの管弦楽的手法の基礎を築いたという意味においても、音楽史上における功績は大きい。
歌劇「ルスランとリュドミラ」は、ロシア文学を代表する詩人アレクサンドル・プーシキン(1799-1837)が1820年に書いた詩に基づいて、1837年から42年にかけて作曲された。グリンカは、歌劇の台本の制作をプーシキン本人に依頼していたのだが、プーシキンが、彼の妻(評判の美人であったという)にしつこく言い寄るフランス人との決闘の末に殺されてしまったため、やむなくヴァレリアン・シルコフら5人とグリンカ本人によって台本が完成された。しかし、共作であったために、台本はチグハグなものになってしまい、内容もプーシキンの原作とかけ離れたものになってしまった。歌劇の初演は1842年12月10日(露暦11月27日)にサンクトペテルブルクのボリショイ・カーメニー劇場にて、アルブレヒトの指揮で行われた。
歌劇の物語は、古代ロシア、キエフ大公国を舞台としている。大公スヴェトザーリの娘リュドミラ姫に3人の求婚者があり、騎士ルスランが選ばれて婚礼の祝宴を挙げていた。そのとき、悪魔チェルノモールが現れ花嫁リュドミラをさらっていく。スヴェトザーリ大公は、その場にいた3人に娘を無事に取り戻した者に娘を与えると改めて宣言し、ルスランを含む3人が救出の旅路に出て行くこととなる。
ルスランは、善良な魔術師フィンの助言を得て、悪魔を倒す魔法の険を手に入れる。一方、リュドミラ姫は悪魔チェルノモールの城で魔術に捕らわれないよう必死に抵抗している。するとルスランが登場し、手に入れた剣によってチェルノモールを倒すのだが、姫はルスランとの戦いの前にかけられた眠りの呪文によって目を覚まさない。ルスランは眠ったままの姫を抱いてキエフ大公国に戻ろうとするが、野営の際に、別の求婚者によって姫を奪い去られてしまう。その求婚者はキエフに戻り、大公に「私が姫を取り戻した」と言うが、大公は結婚を認めない。最終的に、ルスランが持ち帰った魔法の指輪によってリュドミラ姫は目を覚まし、ルスランとリュドミラの2人はめでたく結ばれる、というストーリーである。
初演時には、台本の拙さと、不協和音や半音階、全音音階などを積極的に用いた作曲技法が大衆に理解されなかったこともあり、失敗作と評されてしまった。時の皇族ミハイル・パウロウィッチ大公は『私の部下が私の機嫌を損ねるようなことをしたときには、罰として「ルスランとリュドミラ」を観に行かせることにしましたよ』とフランツ・リストに語ったと言われるほどの評判の悪さであった。
このように、初演時の評価は低かったのだが、物語の場面がフィンランドや悪魔の城などに飛び、幻想的なバレエ・シーンも含まれるといった世界観はメルヘン・オペラの規範となり、音楽的にも様々な民族的素材が織り込まれるなどの国民楽派的な作曲様式は、次世代のロシア人作曲家によって追随されることとなった。このように、ロシアの国民オペラの基礎としての音楽史上における意義は大きく、現在では作品の価値も見直されており、ロシアなどでは全曲の上演も行われている。
歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲は、歌劇とは独立した管弦楽曲として演奏される機会が大変多く、グリンカの全作品のなかでも最も親しまれている作品である。作曲者の表現によると「全速力で疾走する」ような、プレストのテンポで押し通すこの曲は、軽快で華麗な楽想と、しばしば「東洋的」と形容されるロシア風の旋律が印象的な作品である。
曲は、2分の2拍子の整然としたソナタ形式で書かれており、いずれの主題も歌劇のなかで用いられているものを素材としている。原曲はニ長調だが、このスコアでは吹奏楽編成の機能を考慮しハ長調に移調して編曲した。
冒頭、トゥッティで和音とともに駆けめぐるようなフレーズが奏され、続いて、快活な第1主題が提示される([A]~)。この部分では、木管群のメロディをに対して金管の伴奏が“聴いて”合わせようとすると、いわゆる“時差”によって金管楽器が遅れてしまいがちなので(曲のテンポの速さ故にその傾向が顕著になる)十分に注意したい。第1主題の変形による推移([C]~)を経て、第2主題が変ホ長調(原曲ではヘ長調)で提示される([D]~)。ロシア的な性格が強いこの主題は、第2幕の「ルスランのアリア」からとられたものである。旋律の中音楽器群は豊かな響きを意識して伸び伸びと歌ってほしい。
続く展開部は、冒頭の音形と2つの主題とが組み合わさっている。旋律と伴奏、あるいは室内楽的な部分とトゥッティとの対比を意識すると効果的であろう。[M]からは再現部で、第1主題は提示部と同じくハ長調で、続いて、第2主題([P]~)がここではト長調で奏される。[Q]から強奏になったときのシンコペーションの伴奏は、存在感のある幅広い立体的なサウンドを作りたいが、音量的にメロディを覆ってしまわないようには気をつけたい。
[S]からは、終結部に入る。357小節目からは第1主題の素材に重ねて、低音部に6音全音音階が現れる。この全音音階は、歌劇のなかで当時としては珍しいライトモチーフ的な性質を持っており、悪魔チェルノモールを表す音形として使われた。また、この全音音階はドビュッシーが愛用したことや、メシアンの“移調の限られた旋法”第1番として知られているが、西洋音楽史上で用いられたのは、この曲が最初の例である。
この吹奏楽編曲は、2007年4月14日にさいたま市民会館おおみやにて催された、さいたま市立浦和高校吹奏楽部第32回定期演奏会において、編曲者の指揮/同校吹奏楽部の2年生(当時)32名の演奏によって初演された。
(黒川圭一)