演奏時間:11:00(約)
グレード:4~5
主なソロパート:Ob./Bsn./Trp./Trb./Perc.
Trp.最高音:1st:high B♭/ 2nd:G / 3rd:G
編成:吹奏楽
2nd Flute
Piccolo (doub. Flute)
1st Oboe
2nd Oboe
English Horn in F (2nd Oboe)
1st Bassoon
2nd Bassoon
Clarinet in E♭
1st Clarinet in B♭(div.)
2nd Clarinet in B♭(div.)
3rd Clarinet in B♭(div.)
Bass Clarinet in B♭
1st Alto Saxophone in E♭
2nd Alto Saxophone in E♭
Tenor Saxophone in B♭
Baritone Saxophone in E♭
3rd & 4th Horns in F
1st Trumpet in B♭
2nd Trumpet in B♭
3rd Trumpet in B♭
1st Trombone
2nd Trombone
3rd Trombone
Euphonium (div.)
Tuba (div.)
String Bass (optional)
1st Percussion
Suspended Cymbal
Hi-hat Cymbal
3 Toms
Wood Block
Bass Drum
Bongos
Crotale (E-A♭-D♭) or Glockenspiel
Xylophone
Glockenspiel
Vibraphone
Triangle
1990年に作曲した交響詩『ぐるりよざ』を、この30年間に多くのバンドで演奏していただき、とても嬉しく思っています。
この30年間に、インターネットによる情報網が著しく発達しました。『ぐるりよざ』を作曲したときは、入手できたわずかな資料から、日本にキリスト教や西洋音楽が渡来した時代に思いを馳せていました。しかし今は、様々な資料が容易に手に入りますし、古い時代の音楽についての興味深い研究も知ることができます。
16世紀スペインの作曲家・ビウエラ奏者であるルイス・デ・ナルバエス(Luis de Narvaez, 1500頃~1555から1560)の作品も、CDが数種発売されるなど、よく知られるようになってきました。
ナルバエスは、今の「変奏曲」の前身とも言える「ディフェレンシアス」を作り上げました。その中の一つに、スペインのマリア讃歌を用いた作品「讃歌『オー・グロリオーザ・ドーミナ』による6つのディフェレンシアス(Seys diferencias sobre el himno “O gloriosa domina”)」(1538)があります。このメロディは、私の『ぐるりよざ』第1楽章で用いたメロディでもあります。
私は、幼少より西洋音楽に親しみ、学んできたこともあり、いつになっても西洋音楽への憧憬を抱き続けています。その思いを込めて、この古いメロディを使って、私なりのディフェレンシアスを作りました。
16世紀前半の古い音楽は、今の私たちにはかえって新鮮に映るかもしれません。そこで、この曲の冒頭部と終結部には、ナルバエスの『6つのディフェレンシアス』から引用し、往時を感じてもらうことにしました。主部(第42小節から第390小節)には、『ぐるりよざ』の第1楽章と同じように、13からなるディフェレンシアスが置かれています。
第8ディフェレンシアのあと(187小節から)の中間部の、静謐で美しさに満ちた音楽に身を委ねてください。ここはサラバンドふうの音楽ですが、それよりももっと遅く(出来る限りのピアニシモで)演奏してください。そしてその後は、民族音楽ふうの踊りの音楽を置きました。(打楽器はごく通常のものを用いていますが、音色やリズム感を工夫してみてください)。
作品の構造はシンプルですが、各部分の関係をよく意識して全体を構築してください。全体はへ短調。主部は基本的にニ短調、しかし102小節からは変イ短調からト短調へ、突然店長して中間部は変イ長調(ニ短調から最も遠い調性、へ短調の平行調)、219小節からは、へ短調からハ短調へ、さらにイ短調を経てへ短調へ、といった調性の構造の意味も考えてみてください。
なお、第2オーボエは、イングリッシュ・ホルンに持ち替えての演奏が可能です。(パート譜のみに掲載)。演奏者の技量や好みに応じて、楽器を選択してください。
ところで、近年の新しい吹奏楽作品は、リズムや迫力や色彩に満ち、作曲技法や楽器法もかなり進化してきました。その一方で、メロディを美しく歌い上げる機会が減ってきたように感じています。
この曲は、WMCケルクラード2022の課題曲として作曲しました。そのため、「何を課題とするか」を考えました。この曲には、テクニックを誇示するような部分はあまりありません。その代わりに、バンドのほんとうの美しいサウンドやハーモニー、そして何よりも「音楽的な表現」が求められます。楽譜には、音楽用語をあまり書きすぎないようにしました。どのように表現するのか、ぜひ熟考されてください。音符そのままを音に出しただけでは、良い演奏にならないはずです。
16世紀中頃に日本に伝来したキリスト教は、のちに禁止され、さらに日本は「鎖国」の時代に入り、海外との交流がほとんどなくなりました。そんな中で、おそらくは当時に日本に伝えられたであろう音楽はいつのまにかし、メロディも歌詞も原型を留めないほどになってしまいました。それが30年前に作曲した私の『ぐるりよざ』のテーマでした。2021年現在、コロナのために全世界が「鎖国」をするという時代を過ごしています。今このメロディを使った作品を発表することに、不思議なつながりを感じるとともに、2022年には、ふたたび多くの人たちがケルクラードに集まれることを願ってやみません。
(伊藤康英)