Piano
オーボエ奏者の宮村和宏氏(東京佼成ウインドオーケストラ副コンサートマスター)から「サン=サーンスやプーランクの系譜を継ぐ、調性のあるソナタを」と依頼を受け、2017年に「オーボエ・ソナタ」を初演、その後ビデオをインターネットにアップした。それが磯部周平氏(元NHK交響楽団首席奏者)の目に留まり、「クラリネット・ソナタ」を依頼された。
「クラリネット・ソナタ」といえば、ブラームス、サン=サーンス、プーランクらの名作が、いずれも作曲家が円熟した最晩年に書かれている。そう考えると、「クラリネット・ソナタ」作曲へのプレッシャーが大きく、遅々として筆が進まず、3年近くの月日が経ってしまった。
2020年12月になり、今まで書いていたアイディアを破棄して一から書き始めたところ、2021年1月10日に完成。
全体は4つの楽章からなる。バロックのソナタを模した、緩―急―緩―急の、比較的平明な構成。
第1楽章は短調だが、決して暗い音楽ではなく、明るさ(chiaramente)を持ちたい。ここに登場するさまざまなモティーフが、以降の楽章を構成する。
第2楽章はスケルツォ的な楽章。ロンド形式の中に、第1楽章のモティーフが代わる代わる展開する。
途切れなく第3楽章へと入り、シャコンヌふうの展開となる。(第2楽章で演奏を終える場合のみ、「for ending」を演奏すること)。
第4楽章もロンド形式ではあるが、最後にフーガ的な展開となり、ほぼ全てのモティーフが現れたのち、第1楽章をアダージョで懐古しつつ全曲を静かに終える。
「ソナタ形式」の楽章は一つもないが、全楽章を通して入念な展開を行ったので、「ソナタ」の名に相応しいものとなった。 4つの楽章は、途切れなく演奏するのが望ましいが、第1と第2楽章、第3と第4楽章の間は空けても構わない。 楽譜には最小限のダイナミクスやアゴーギクのみ書いておいた。メロディを十分に歌い上げてほしい。
2021年3月22日、アーティストサロン“Dolce”にて作曲者自身のピアノにより初演。 サン=サーンスの名品のちょうど100年後の初演というのが感慨深い。
(伊藤康英)