『女声合唱版初演プロジェクト・リレーコラム』第2回:バスの誇り、作曲家の葛藤/森山至貴
魅力的な詩を用いていること、適切な演奏時間であることなど、合唱団が合唱曲に求める要素はたくさんあると思いますが、長く作曲活動をしていて痛感するのは、「各パートにディヴィジョン(分割)がない」ことが楽曲選択の絶対条件である、と考える合唱団が意外と多いことです。
たしかに、少人数の合唱団で歌う方にとってはディヴィジョンの有無は死活問題です。ということで、私も折に触れてディヴィジョンのない曲を書こうと努めてきました。選び抜いた必要最小限の音で合唱を成り立たせること特有の難しさはもちろんありますが、合唱団の方が非常に喜んでくださるので、私としてもこれは何度も取り組む甲斐のある課題だと思っています。『太陽と海と季節が』オリジナル版も、混声四部合唱でディヴィジョンはありません。
さて、女声合唱版の『太陽と海と季節が』もディヴィジョンなしで書きたいともちろん思ったのですが、ここに難題が立ちはだかりました。というのも、女声合唱の標準的な編成は女声三部で、オリジナル混声版より声部が1つ少ないのです。オリジナル版の男声パートを女声が歌いやすいよう1オクターブ上げるとしても、そうしてできた4パートの中から、1パートを省略したうえで細かい箇所の帳尻を合わせていかなければなりません。
常道としては、支えとなるバスパートの役割をピアノ伴奏に任せる、すなわちバスパートを省略して残りの3パートの音を調整する、という手法があります。ただ、歌い手としてバスであり、バスパートに思い入れのある私としては、「私たちの歌ってきた大事な音を省略するなんて!」と、デリートキーに手をかけた自分に「待った」がかかってしまうのです。
常道には常道の合理性があるわけで、女声合唱の純度の高い響きを楽しむにはバスパートを省略する方法はやはり有効です。ということで、多くの箇所で泣く泣くバスパートを省略して三部合唱に仕立てました。このコラムを書くにあたって女声版の楽譜を全曲見返しましたが、思いのほかバスパートが省略されていて、自分でもなかなかにショックです。うっかり女声版の楽譜をご覧になった『太陽と海と季節が』演奏経験ありのバスの歌い手が、「私の歌っていた音がない!」と感じるかもしれないので、先に謝っておきます。ごめんなさい! 私だってつらい!
なんだか後ろ向きな話になってしまったので、もっと前向きな話もさせてください。もともと混声合唱の作品を女声合唱に安易に置き直してしまうと、原曲でのソプラノとテノールの見せ場をソプラノがともに歌うことになり、「ソプラノばかり美味しい」曲ができてしまいます。そうならないよう、今回の編曲ではメゾソプラノパートにも「美味しい」メロディを割り振るように努めました。結果として3パートの見せ場がそれなりに均等になったように思え、私としてはホッとしています。「見せ場をもらえないパートの恨みは尾を引く」と身にしみて感じる合唱団出身の作曲家の一人として、これ以上の安堵はありません。
次回からは女声版初演指揮者の石橋遼太郎さんにバトンタッチして連載が続きます。指揮者の目線で『太陽と海と季節が』女声版をどう受け取り、どう解釈していくのか、私も読むのが楽しみです。石橋さん、どうぞよろしくお願いします!
原曲の四声部の動きをなんとか女声三部に盛り込もうと苦心した箇所。
メゾソプラノが歌詞とヴォカリーズを行き来する大活躍をしています。
次回、石橋さん編は1月下旬公開予定!お楽しみに。
「女声合唱団ぱるらんど」第1回定期演奏会で初演される『太陽と海と季節が/女声合唱版』。初演までのあれやこれやを、作曲の森山さん&指揮者の石橋さんに綴っていただくリレーコラムの第2回!
女声合唱ぱるらんど 第1回定期演奏会
2025年4月19日 @国立オリンピック記念青少年総合センター 大ホール