♪詳細情報♪
▼楽器編成▼
Euphonium
Piano
Piano
♪楽曲解説♪
1997年末に完成を見た《天涯の庭》が、立山連峰に想を得た雄大な構えの協奏曲となったのに対し、ピアノ伴奏による小品として委嘱を受けた《さくら》は、際立った美音を特長とする楽器および演奏家(=外囿祥一郎)のキャラクターを最大限に生かすべく想が練られた。
着手に際して早々とタイトルは決定したが、筆を進める過程で「主眼が美しさとは違うものに傾いてしまった」とは作曲者の弁。これは若干の謙遜も含めた言葉だろう。硬派なロマンティシズムを現代的感性で支える彼一流の筆致は「さくら」でも見事な結実を見ているからだ。初演に寄せたプログラムノートを「美しい、けれどもその一言ではすまされぬあの花のもつ物騒ななにものか、時にその花の下にて春死なんと願わしめるまでに古来人々の心を刺戟してきた凄みというべきもの、に憑かれていた気がしてならない。桜の木の下で書かれた曲、とさえいえばいえるだろうか」としめくくっている長生でもある。
確かにその言葉どおり、憑かれたような表情のもと音楽は漸次テンポを速め、リズムも動機作法も細分化の度を増しながら緊張の度を増していく。歩調を緩めたコーダに入ると序奏部の印象的な和声進行が回帰し、全曲の主要主題が(ようやくその素顔を露にするかのごとく)姿を見せ、ひらひらと舞う花弁さながらの余韻嫋嫋とした後奏によって曲は閉じられる。
初演は1999年7月に川口リリアホールで行なわれた(ピアノ:白石光隆)。
[文・木幡一誠]