Flute
Piano

本作は、伝統的な三拍子の舞曲形式のひとつであるメヌエットに基づきながら古典的な様式と近代的な語法の交差が志向されている。
主部では旋律は牧歌的な性格でありつつ、新古典的な拡張されたハーモニーに彩られる。
リズムは記譜上3/4拍子だが、フレーズ内部でヘミオラ的な2拍子文節のフレーズが挿入されることで楽節全体にゆるやかな揺らぎを生じさせている。
中間部はペンタトニックを主素材とし、リズム構造は典型的なメヌエットの型を保持している。
旋律は民謡的な性格を帯びるが和声は短調へ至り、局所的に強い対比と濃密なドラマを形成する。
これにより全体の穏やかな性格の中に緊張が配置され、構造上のコントラストが生まれている。
調性は Des-F-A-fis-C といった大胆な配置をとり、遠隔調を経過する構造を備えている。
つまり再現部C調に対してナポリ調から曲が始まっており、最後のカデンツァはDes調の主和音がドミナントとなることで調性的に韻を踏んでいる。fis調からC調へは、fis調の属七下方変異第一転回形をC調の属七下方変異第三転回形へ異名同音に読み替えることによって最遠隔転調を実現している。これらの創意により調性構造においても飛躍と回帰の感覚が織り込まれている。

（中村匡寿）